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2010年 01月 25日

オバマ政権の医療保険制度と景気刺激策

■ 先週19日火曜日、米国マサチューセッツ州で行われた上院議員補欠選挙で、共和党のスコット・ブラウンが選出された。この選挙には、下院に提出されていた全国医療保険制度に関する法案(Healthcare Bill)が上院で可決されるかどうかがかかっていた。今回の選挙で共和党議員が選出されたことで、Filibusterと呼ばれる嫌がらせ行為(答弁をする議員がトイレから出てこない、などw)を強制終了できなくなるらしく、この法案が上院を通過することが困難になった。上院100議席中60議席を確保しないとFilibusterを排除できないらしいが、今回の選挙で民主党は60議席を割った。

■ 米国は全国共通の医療保険制度を持っていないが、マサチューセッツ州は州独自の医療保険制度を持っている(俺も強制加入させられている)。州独自の医療保険に加えて、全国共通の医療保険も始められたら、マサチューセッツ州民にとってプラスとならないと見られていたようで、だから、選挙に投票した人たちは全国共通の医療保険を嫌って共和党を選んだと見る人もいる。

■ しかし、今回の選挙の結果は、医療保険システムに対してマサチューセッツ州民が「待った」をかけたというより、発足以来ちょうど1年のオバマ政権の経済刺激策に対する「待った」と評価する向きが多い。

■ オバマは2008年11月の大統領選挙時、マサチューセッツ州で26%ポイント差で勝ったが、今回の上院補欠選挙では5%ポイント差で負けた。大統領選のときバージニア州では6%ポイントで勝ったが、2009年11月の州知事選では18%ポイント差で負けた。大統領選ではニュージャージー州は16%ポイント差でオバマの勝ちだったが、2009年の州知事選では4%ポイント差で負けた。2010年は、11月に大統領選中間選挙も控えていて、オバマ政権に対する中間評価が続くことになるが、過去数ヶ月の選挙結果を見る限りでは、米国民のオバマ政権に対する評価は辛い。
President Obama carried Massachusetts by 26 points on Nov. 4, 2008. Fifteen months later, on Jan. 19, 2010, the eve of the first anniversary of his inauguration, his party's candidate lost Massachusetts by five points. That's a 31-point shift. Mr. Obama won Virginia by six points in 2008. A year later, on Nov. 2, 2009, his party's candidate for governor lost by 18 points—a 25 point shift. Mr. Obama won New Jersey in 2008 by 16 points. In 2009 his party's incumbent governor lost re-election by four points—a 20-point shift. [The New Political Rumbling: Massachusetts may signal an end to old ways of fighting. -By PEGGY NOONAN (Jan 22, 2010)]

■ オバマ政権の景気刺激策は、過去20年間の(特に90年代の)日本の景気対策と同じく、公共投資(道路工事など)に向かっている。これに対して、ハーバード大学ケネディ行政大学院のアルバート・アレシナ教授とシカゴ大学ビジネススクールのルイジ・ジンゲイル教授は、消費者がリスクをもっととることで、民間企業の投資が増えるようにしないといけないと説く [Let's Stimulate Private Risk Taking: Tax cuts are the way to nudge capital toward productive uses -By ALBERTO ALESINA and LUIGI ZINGALES (Jan 21, 2010)]。

A. 2009年以降のすべての投資に対して、キャピタルゲインへの課税を一時的に(少なくとも2年間)停止する。
B. キャピタルロスは、大部分税額控除対象にする。
C. 2009年に行われた資本への投資と、研究開発への投資をすべて税控除する。

民間貯蓄が諸々のファンド(特にMutual Fund)から株式投資へ流れることを期待している。らしい。当然、貯蓄がそんなにない人たちも救済できないといけない。アレシナとジンゲイルによると、失業補助と減税を実施するほうが、公共投資をするより効果的なようだ*。
Many are concerned about what we can do to help the poor weather this crisis. Unlike during the Great Depression, we have an unemployment subsidy that protects the poor from the most severe consequences of this recession. If we want to further protect them, it is better to extend this unemployment subsidy than to invest in hasty public projects. Furthermore, tax cuts have a much better effect on job creation than highway rehabilitation. [Let's Stimulate Private Risk Taking: Tax cuts are the way to nudge capital toward productive uses -By ALBERTO ALESINA and LUIGI ZINGALES (Jan 21, 2010)]

彼らの議論の根底にある前提は、今回の経済危機が金融サイドからのみ発生していて、実物サイドは元凶ではないということだ。そして、それは正しい。サブプライムローンがクレジットスワップを通じて信用市場を揺るがした結果、信用収縮(Credit Crunch)が起きている。信用市場は、投資信託などの中間投資家を経て債権者から債務者へ流れる間接的信用力を失っただけでなく、債権者から債務者への直接的信用力をを失った。この一連の流れの中に、技術的な問題は一切入ってこない。

■ 当然、信用市場の活況を取り戻すために、金融市場制度をより安全にしないといけない。今回記事に取り上げたオバマ政権の政策とは別に、オバマ大統領は金融市場、とりわけ銀行制度の改革に取り組んでいる。「大きすぎて倒産できない(Too big to fail)」というアイデアが大手銀行の救済をサポートしているが、それだけに、過去1年半の間、銀行の上級管理職が多額のボーナスを手にしたことに対して、民間の心理的反発はとてつもなく大きい。先週は、大手銀行の上級管理職の2009年度ボーナスが報道された。来週には、これらの銀行上層部を含め、世界中の財界・政界の人たちがスイスのダボスで経済会議に参加する。今後の展開にさらに注目したい。

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*: 公正を期すために記すと、経済学者の間でもこの点にコンセンサスはない。例えば、2008年にノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のポール・クルーグマン教授は、オバマ政権の経済刺激策としての公共投資は「全く足りていない」と発言しており、さらなる公共投資を呼びかけている。
About the stimulus: it has surely helped. Without it, unemployment would be much higher than it is. But the administration’s program clearly wasn’t big enough to produce job gains in 2009. Why was the stimulus underpowered? A number of economists (myself included) called for a stimulus substantially bigger than the one the administration ended up proposing. According to The New Yorker’s Ryan Lizza, however, in December 2008 Mr. Obama’s top economic and political advisers concluded that a bigger stimulus was neither economically necessary nor politically feasible. Their political judgment may or may not have been correct; their economic judgment obviously wasn’t. [What Didn’t Happen -By PAUL KRUGMAN (Jan 17, 2010)]

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by yoichikmr | 2010-01-25 22:00 | 記事


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